初期仏典から学ぶこと

アーナンダよ、ヴァッジ人が、未来の世にも、未だ定められていないことを定めず、すでに定められたことを破らず、往昔に定められたヴァッジ人の旧来の法に従って行動する間は、ヴァッジ人には繁栄が期待され、衰亡は無いであろう。
     ブッダ最後の旅 ー大パリニッパーナ経ー(岩波文庫)から引用

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涅槃経とも呼ばれる仏典のワンシーン。

マガダ国の王女が、繁栄するヴァッジ族を征服しようと画策した際、部下をブッダのもとに送って助言を求めますが、ブッダはヴァッジ人の賢さを弟子の アーナンダにひとつひとつ確認しながら説き、彼らが7つの法を守っているからには容易に征服は出来ないであろう、と思いとどまらせます。
7つの法とは、会議を重んじる、協同して為すべきことを為す、旧来の方を守る、古老を敬う、女性や子どもに暴力を振るわない、霊域を敬う、修行者を保護する、といったことがら。
「国民の意見を聞く」「審議を尽くす」「憲法を守る」ことをしない日本の政権は、ヴァッジ族とは真逆の方向に進んでいるように思えます。

<タイポグラフィ作品の記事一覧>

A面B面

7月下旬から2ヶ月ほど、主に展示作品とアートブックの制作で
かつてないほどの忙しさでした。

朝起きるたびに新しいアイデアが出てくるような毎日は本当に幸せですが、
アウトプットが続き、新聞、本、美術館などからのインプットが滞ると
明らかに精神のバランスは悪くなり、思考回路も短絡的になってきます。

先月下旬に一段落して、やっとそういったインプット作業を再開しました。
とりあえず前から気になっていた森美術館の「アラブ・エクスプレス」展。
予想通り政治色が強く、まさにタイムリーな展示内容。

鑑賞後は、泥沼化するシリア内線など最新の中東情勢が気になって、
元外交官で中東の専門家・野口雅昭氏のブログ「中東の窓」を確認。
その後ネットサーフィンするうちに、野口氏の息子さんである
アルピニスト・野口健さんが子供のころ雅昭氏から言われたという
印象深い「ことば」が出てきた。

 「世の中にはA面B面がある。A面はほっといても見える。
 足を運ばないと見えないB面に、社会のテーマがある」

現代アートにも通じることばですね。
アラブ・エクスプレス展に出品していた作家たちは、まさに
母国のA面B面をどうやって見せていくかに腐心していたように思います。

先月のアートブックフェアで販売した
「クリシュナのことば」と「古今東西の聖者・賢者のことば」は
ありがたいことに、多くの方々に好評をいただきました。

意味より「文字の形」を面白がってもらえた部分も多いとは思いますが、
特に、ニーチェの「ツァラトゥストラ」からの引用に始まり
人間のB面をあぶり出すような「辛辣なことば」を書き連ねた
古今東西の聖者・賢者のことば」が20代〜30代の若い方々にアピールできたのは
自分としては予想外であったと同時に、大きな自信になりました。

社会のA面B面、人間のA面B面を考えつつ、今後も制作に励みたいと思います。

<タイポグラフィ作品の記事一覧>

年末のご挨拶

大晦日ですね。
本年もバンドウの不定期なブログを見ていただきありがとうございます。

世界も日本も大きく変わった年でした。
年末がなんの区切りでもなく引き続き、放射能、経済、
すべてにおいて危機的状況が続いていくことを覚悟しています。

先日、多木浩二氏が1995年に書いた
戦後50年の文化に関するテキストを読みましたが、
日本における戦後処理は、理性的な責任追及がなされたドイツなどと比較して
きわめて曖昧なものだった。シビアな責任追求も総括もなされず
政治システムも文化も、断絶ではなく温存された部分が多かった。
という内容が強調されていました。

年末の政府によるフクイチ冷温停止宣言はその戦後処理と
まさに同じ事の繰り返しに見えます。
政府がこんな状態ですから、一人ひとりが
批判を恐れず行動するしかないですね。
自分はアート表現や音楽表現を通してできることをやります。

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今年のタイポグラフィと音楽の活動、
初個展を始め、かなりの手応えを感じることが出来ました。
ご来場いただいた方々には、御礼申し上げます。

新年早々、マキイマサルファインアーツにて開催される
「龍」2012展、には新作タイポグラフィ作品を出品いたしますので
是非よろしくお願いたします。

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今年も多くの展覧会を観ました。
空海と密教美術、法然と親鸞、など仏教系も充実していましたが、
ひとつだけセレクトすると、
非常に象徴的だった「メタボリズムの未来都市展」。

「戦後日本・今甦る復興と夢のビジョン」というサブタイトルが示すとおり
非常にスケールの大きな展示ですが、
3.11後の日本においては、戦後復興期の「未来」「夢」といったものが、
いかにも儚いものに見えます。前述の多木氏が指摘したように、
曖昧な「温存」の中から生まれた架空の「未来」だったのでしょうか・・。

とはいっても作品そのものはどれも素晴らしく感じるわけで、
会場内で自己矛盾と向きあうことになりました。

特に丹下健三のいくつかの作品は圧倒的なスケール感と造形力に加えて
背後にスピリチュアルな象徴性を感じるもので
宗教と建築の関連を勉強したい気持ちになりました。

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来年もよろしくお願いたします。
バンドウジロウ

2011 大晦日
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